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「青山碁盤店の碁盤が当る! 囲碁 人生/よろず/全科/なんでも 案内・相談室」


大斜定石に挑む  −新手の批判を求めて−


 前略、定石の本に出てこない手で、私の得意(十八番)の戦法がありますが、今まで碁会所で五十回以上試みて苦戦に陥ったことはなく、数回は一挙にトドメを刺したこともあります。結果が五分のワカレになるものならば、このような定石にない手はハマル機会と時計の碁(いろいろな大会はたいてい持時間一時間ぐらいです)に立ち上がりの有利を見込んで今後も愛用したいと思いますが?・・・
一度先生に判断していただきたく、この相談室を利用しました。

A図 B図 C図 D図 E図

名古屋市東区白壁町四ノ十七 斉藤純一

写真業 33才 四段格



名誉本因坊 高川秀格 天元子

 アマチュアでも熱心な方は自家製か何かの天体望遠鏡で新星を発見することがあるそうですが、あなたの質問を拝見して、星の数ほどある大斜の攻防から、アマチュアながら新趣向を編み出して実戦に活用しておられるというその熱意に敬服し、及ばずながらご研究の成果にメスを入れてみることにしました

大斜百変

ご承知の通り大斜ガケは昔からある趣向で大斜百変といわれるくらい変化は尽きませんが、古碁で有名なのは秀策がハメられたという一型でしょう。

第1図

第一図
 江戸時代の弘化3年というから話は今から百二十年ほど前にさかのぼります。
 その当時は各家元の間に門外不出の秘伝という型があって大事な勝負碁にその秘伝を放って相手を脅かしたと伝えられていますが、この一型は玄庵と異名をとる井上家の総裁因碩八段と本因坊家の跡目秀策との一戦に現れた変化で、秀策は当時まだ18才。白17とオシてから19,21と二段バネする新趣向に遭遇して応手に苦吟したというのも無理はありません。
それは黒16とオス手で黒20とハシる軽手がまだ発見されなかった時代だったからですが、しかし後に棋聖と謳われただけあってさすがは秀策、黒22のキリから劫立を造って劫争によって見事難局を打開し、この後中原に耳赤の妙手を放って3目勝を収めましたが、さて貴下苦心の新法は果たしてハマるか、ハマらぬか?
ともかくもやってみましょう。

A図


 黒15のカケから黒17とケイマに封鎖する形は私も始めてで、囲碁大辞典にも見当たりませんから、他国から名乗り出る打ち手がない限り、あなたの専売特許は間違いないでしょう。ここで参考までに

第2図 類似型を挙げておきますと、黒1から黒3とカケる定石型があります。

第3図 前図に続いて、白1、3のハネツギから白7とツケて白13までハッて活きるのがその一法で、黒の外勢もさることながら白イ・・・と出ギル欠陥が残っているから白も打てるとされています。

第4図 黒1から白2を待って黒3と一間トビで封鎖するのもよくある型で、その後の変化は次頁に示しますが、あなたの工夫されたA図のように、君子は危うきに近寄らずとばかり黒15から黒17と遠巻き戦法に出たのは確かに一理ある手で、近づけばそれだけ抵抗も多いが遠いだけに白もヘタに動けないわけです。

第5図 前図に続く変化の一例は本図白1以下15までですが、この図は後の説明と比較対照するところがあるので特に注意しておいていただきます。




B図の場合

 さていよいよ戦いにはいってB図白1以下11ですが、この結果は明らかに白のハマリ形で、白7、9と黒8、10の交換がヒド過ぎますから、さぞかしニコニコされたに相違ありません。
なお白11顔を出したとき黒12とトビツケたのも妙案で、うっかり

第6図 黒1とオサえると白2以下6で黒イ(N14)は白ロ(N15)、黒7は白8とハサミツケる手筋に遭ってカナメ石が助かりません。そこでB図黒12の後の想定変化ですが

第7図 上辺を受けているヒマはありませんから白1と進出し、黒2,4を許して白5、7と小さく活きるほかはないということになりそうですが、このワカレも公平に見て黒が悪くありません。

C図の場合

第8図 白1のコスミツケは一見俗筋で、これは白イ(O12)のツケから打つほうが筋ですが、それはともかくとして白1とコスミツケたとき黒2とトビツけば、黒3を防いで白3とノビ切る一手でしょう。黒4、6に対しては白7,9とハネツイで活き、黒も10、12とハネサガって活きるのが最善と見られますが、この形は

第9図 白イ(L18)のマガリから後に白△(R13)のツギなどが加わってこの連絡路が断たれると、隅の黒に対して白1とハサミツケる筋が成立し、黒2以下白5と劫争に持ち込む手段が狙いとして残ることになりますから、その意味で白も打てそうな感じがします。
なお白△(R13)に先立って黒ロ(S12)とコスミツケるのは白ハ(T13)とオサえて抵抗する手段があることにも注意を求めておきます。

第10図 次に、白1とコスミツケたとき、黒2とオサえる手段も成立すると思います。白3に対して黒5とオサえることはできませんが(第6図参照)黒4とゆるめることはできるわけで、白5の突き出しから白17の戻りまではその後の変化の一例ですが、これと比較されるのが前に言った第5図です。
つまりこの第10図は第5図と大同小異のワカレになっていることが分りますが、第5図の通型と比べてみると本図の黒の外勢は各所に断点を持つだけにやや不利と言えます。
しかし、ご質問の主旨から考えると、別に相手をハメ損ねたというほどのことはありませんから、黒も打てるとお答えしてもよさそうです。

D図の場合

第11図 D図の結論がもし絶対ならば、これは完全な白のハマリですが、その黒の手順には多少独断的な点があります。それは次図に譲るとしてD図の黒10、すなわち本図のイ(S13)のツケは白ロ(O12)とツケる抵抗を残して味の悪い打ち方ですから、本図のように黒1とオサえてトドメを刺すべきでしょう。D図に戻って指摘される黒の独断ですが、同図白9は必ずこう眼を取るとは限らないわけで、それよりも

第12図 白1とつけて抵抗する公算が大きいと見なければなりません。白1以後の変化は前に示した諸変化を参考にしていただきますが、この形は白に活きられると白イ(T18)と眼を取られる借金が残ることになります。

E図の場合

第13図 白の立場で考えると、白1と隅からハネるのが一番分り易いようです。黒2とハネるのは白5の後、白イ(S17)に備えて黒6が省けませんから白7またはロ(S11)で黒失敗

第14図 E図の白15は本図白1と劫争の負担を大きくしてから白3と劫争を挑むのがおもしろい。


以上、雑誌「囲碁」昭和四十二年四月号 からでした。この雑誌定価が170円です。時代を感じさせてくれます。